ご多分にもれず、後世に残る名曲の裏には、血を吐くような苦しみのなかで作品を完成させた作曲家の苦悩と波乱の人生がある。ラフマニノフの音楽は、チャイコフスキーが大成させたロシアロマン派の最後の流れを受け継ぐものとされている。つまり、大先輩の名曲を尻目にロマンの御旗のもと、名曲を生み出さなければいけないプレシャーはただ事ではない。ロマン派の作品を生み出す源は、やはりロマン=恋愛なのだが、それだけでは名曲は生まれてこない。超絶的技巧の“魔法の手”をもつ彼には、ピアニストとしての世間的な評価と、作曲家として大成したいという夢の狭間で苦しみ悶えていた。それを支える愛の力、作曲の源となる女性への恋慕の思い、そしてある暗示の力によって、名曲は生まれた。名曲を語るうえで愛の力は欠かせないのだ。「タクシー・ブルース」でカンヌ国際映画祭最優秀監督賞を受賞したロシアの監督パーヴェル・ルンギンが、その愛の物語を美しい映像美と、ラフマニノフの代表的な名曲とともに描いている。
ストーリー
その夜、カーネギー・ホールは、熱狂的な感動に包まれていた。ロシア革命を逃れてアメリカに亡命したラフマニノフの、ニューヨークでの初コンサートが開かれたのだ。
時は1920年代、人々は目の前で繰り広げられる音楽の奇跡に、破格の賛辞を贈り続けた。
この日を皮切りに全米ツアーが始まるが、行く先々での大成功とは裏腹に、ラフマニノフは日に日に憔悴していく。祖国への望郷の念、そして何よりも新しい曲が生まれない苦しみ。ある日、ラフマニノフのもとに、贈り主不明のライラックの花束が届く。
故郷に咲き乱れるその花の甘い香りをかいだ瞬間、切ない愛の日々が甦る。
愛の記憶に導かれるように、彼の心に新たな旋律が生まれようとしていた…。
ここが見所!&公開情報
「彼だ!」とルンギン監督は、ラフマニノフを演じる主役を発見したときのことを回想している。それほどエフゲニー・ツィガノフはラフマニノフと瓜二つ。まさに適役とはこのこと。よりリアルなラフマニノフを出会える喜びは言うまでもないだろう。

監督:パーヴェル・ルンギン 『タクシー・ブルース』。
出演:エフゲニー・ツィガノフ、ヴィクトリア・トルストガノヴァ、他。
4月19日(土)より、Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマ他全国順次ロードショー。
配給:ギャガ・コミュニケーションズ
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映画を観た後に、観る前にスクリーンを彩った、心奪われる魅惑の旋律を堪能!
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作曲家ラフマニノフについて
セルゲイ・ラフマニノフは、1873年ロシアのセミーノヴォで没落貴族の子として生まれ、ペテルブルク音楽院、続いてモスクワ音楽院で学ぶ。1917年に革命から逃れるためにロシアから離れ、二度と故郷の地に戻ることはなく、1943年ビヴァリーヒルズで没した。
演奏家ラフマニノフは、非常に大きな手と、驚異的に正確な技術を持った当代随一のピアニストとして活躍、指揮者として活動したこともある。一方、作曲家ラフマニノフの特徴は2点に集約できるだろう。1つは、「チャイコフスキーに帰れ」という動きを実践し、後期ロマン派の語法の枠内で作品を生み出したことである。これは、20世紀前半の作曲家としては保守的で目新しさに欠けるというマイナス評価につながる一方、独特の叙情性をたたえる旋律や和声をもつ作風が高い人気につながっている。もう1つは、作曲家とピアニストとの両立に悩んだことである。この映画でも描かれているように、恩師と衝突し、アメリカ時代には、ピアニストとしての活動が作曲の妨げになっていた。
以下の作品紹介では、それぞれの作品の魅力にはあえて極力触れないようにした。映画《ラフマニノフ》を見て、あるいは、リアルミュージックやCDを聴いて、是非ご自分の耳で確かめていただきたい。
作中に登場した名曲について
交響曲 第1番 二短調 作品13
ラフマニノフ最初の交響曲は、1895年8月に完成、97年3月15日ペテルブルクにおいて、ロシア国民楽派の重鎮リムスキー=コルサコフやキュイらが見守る中、グラズノフの指揮で初演された。しかし、主に指揮のまずさのため大失敗に終わり、彼はショックのあまり、演奏が終わるや否や雪の舞う街に消えたという。キュイには「地獄の民を熱狂させるだろう」と酷評され、結局これが生前の唯一の演奏となった。その叙情性に彼の個性の片鱗を見せる若き日の意欲作である。
ピアノ協奏曲 第2番 ハ短調 作品18
交響曲第1番の失敗によりラフマニノフの精神状態は悪化し、それから3年間は作曲ができる状態ではなかった。しかし、音楽愛好家でもある精神科医ダーリの催眠療法を受け、自身と意欲を取り戻したラフマニノフは、1901年4月にピアノ協奏曲第2番を完成させる。同年10月作曲者自身のピアノにより初演され、ダーリ博士に献呈された。ラフマニノフの作曲家としての地位を確立し、また、「逢びき」などの映画にも用いられたもっともポピュラーな作品。
ヴォカリーズ (「14の歌」作品34 第14曲)
「ヴォカリーズ」とは、歌詞なしで母音だけで歌うこと。1912年4月に作曲、15年9月改訂され、16年に作品34の第14曲として出版された。もとは、高声とピアノのための作品だが、作曲者自身による2つの編曲(ソプラノとオーケストラ、オーケストラのみ)の他、多くの編曲で親しまれている
パガニーニの主題による狂詩曲 作品43
ラフマニノフは、1920年代の終わりから、冬はアメリカ、春か秋に欧州で演奏活動を行い、夏は別荘で過ごすようになった。この曲は、1934年7月から8月にかけてスイスのルツェルンにある別荘で作曲され、11月に作曲者のピアノ、ストコフスキー指揮フィラデルフィア管弦楽団で初演、大成功を収めた。悪魔的な技術をもつヴァイオリニスト、パガニーニ(1872-1840)の代表作《24のカプリース》第24曲による変奏曲で、中世の聖歌「ディエス・イレ(怒りの日)」の旋律も組み合わされる。彼のアメリカ時代の代表作のひとつである。
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